2025/10/24ニュース

AIとインシデントレスポンスの融合 ~セキュリティに求められる進化~

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はじめに

サイバー攻撃のスピードが人間の対応を上回る時代。
毎日のように新しい脅威が生まれ、アラートは増え続け、対応に追われる----そんな現場を支える切り札として、いま「AI×インシデントレスポンス」が注目されています。

こんにちは、CISOサービス事業部テクノロジーコンサルティンググループの長浜です。
これまで、セキュリティオペレーションに関する三部作( マネージドSIEMサービスMDRSOAR)を通じて、運用強化の実践知を共有してきました。

今回は、その延長線上として、いま最もホットなテーマである「AIをどう活用し、インシデント対応を進化させるか」に焦点を当てます。
セキュリティの現場で本当に役立つAIの使い方を、現実的な視点で整理していきましょう!

世はまさに大AI時代

AIはすでに私たちの身近に浸透しています。冷蔵庫やエアコンが自動で省エネ運転を最適化したり、ニュースを自然な音声で読み上げたり。 一昔前なら「未来の技術」だったものが、いまや当たり前のように生活やビジネスに溶け込んでいます。

そしてAIの進化スピードは加速し続けており、やがて人間の知性を超えるとされる「シンギュラリティ」への到達も議論されています。すでにいくつかの仕事はAIによって代替されつつあり、私たちは「AIとどう共存していくか」を避けて通れなくなりました。 当然、サイバーセキュリティの世界も例外ではありません。

今回はその中でも、AIをインシデントレスポンスに活用することについて考えたいと思います。

インシデントレスポンスとは?

まずインシデントレスポンスについて、軽くおさらいしておきましょう。
インシデントレスポンスとは、セキュリティインシデントが発生した際に、組織が迅速かつ適切に対応するためのプロセスのことです。ここでいう『セキュリティインシデント』とは、組織の情報システムやデータに対する不正アクセス、攻撃、またはその他の脅威が発生した事象を指します(当記事では、以降この意味で単に『インシデント』と記述します)。
このプロセスは、発生してしまったインシデントの影響を最小化し、迅速に復旧することを目的として運用されます。

フェーズ内容
① 準備ポリシー策定、対応チームの編成、ツール整備、トレーニング
② 検出監視やログ解析で異常を早期に発見
③ 封じ込め攻撃者のアクセス遮断やシステム隔離で被害拡大を防止
④ 原因特定攻撃経路や脅威を分析し、完全排除
⑤ 復旧システム修復やデータ復元で通常運用へ戻す
⑥ 事後対応対応の振り返りと改善策の実施

これらのステップは教科書的に整理されていますが、現場では必ずしもスムーズに進むとは限りません。ここに大きなギャップが存在します。

セキュリティオペレーションのジレンマ

テクノロジーの進化やDXの推進により業務の生産性は向上していますが、情報資産の増加や管理体制の変化に伴い、セキュリティリスクも拡大しています。 セキュリティ製品を導入すれば解決すると思われがちですが、運用面では以下のようなジレンマに直面します。

・アラートが大量に発生し人手が追いつかない

・誤検知・過検知により重要なアラートを見落としてしまう

・複数のツールの併用で状況把握が困難

・インシデント対応手順が古いままで非効率


セキュリティオペレーションは監視から対応まで多くの課題を抱えており、インシデントを完全に防ぐことは困難です。 だからこそ重要なのは、迅速で的確なインシデントレスポンスの強化です。 高度化するサイバー攻撃に対し、AIを活用したインシデントレスポンスの可能性を探ってみましょう。

AIとインシデントレスポンスの融合

AIとインシデントレスポンスを組み合わせることで、人間の限界を越える次世代型のセキュリティが実現可能になります。 例えば以下のような効果が期待できます。

1. 攻撃パターンの予測

AIは過去のインシデントを学習し、攻撃者の傾向やパターンを分析・予測でき、これにより攻撃の兆候を早期に察知し、事前対策を講じることが可能です。

2. リアルタイム検出と分析

AIによって大量データを高速処理し、異常な動きやパターンを自動で検出します。 侵入検知システム(IDS)やログ解析ツールと連携すれば、不審なトラフィックを即座に把握できます。 また、ルールベースでは対応しづらい未知の脅威(ゼロデイ攻撃)にも柔軟に対応可能です。

3. 初期対応と封じ込めの自動化

インシデント発生時、AIが攻撃者のIPを自動でブロックしたり、感染拡大を防ぐためにシステムを隔離します。 これにより人手を介さず迅速に対処し、担当者の負担を軽減できます。

4. 優先度付けによる効率化

AIは膨大な情報を整理し、優先度の高いタスクを提示します。 重要な情報を抽出してチームに洞察を提供することで、迅速な意思決定と対応品質の向上を実現できます。

5. ヒューマンエラーの削減

AIによるアラート対応の自動化で、人為的なミスを減らせます。

6. 復旧作業の自動化

AIがシステムの不正な変更変更を監視し、異常があれば自動復元します。 また、最適な復旧手段を提案し、承認後に自動実行することも可能です。

7. 継続的な学習と改善

インシデント対応の履歴をAIが学習し、次回以降の精度を高めることができます。 この継続的な改善が、組織のセキュリティ体制を強化する重要な要素になります。

AIを活用したインシデント対応のイメージ
AIを活用したインシデント対応のイメージ図

AIとどう生きるか

AIはインシデントレスポンスを劇的に変える可能性を秘めていますが、万能ではありません。最終的な判断や意思決定は人間が担う必要がありますし、攻撃者側もAIを利用するリスクを忘れてはいけません。

大切なのは、AIを敵とみなすのではなく「頼れるパートナー」としてどう位置づけるかです。AIと共に進化するか、取り残されるか。選択は私たち次第です。

まとめ

インシデントレスポンスの現場は、これまで人手に依存していた「守り」から、AIを活用した「攻めの運用」へと変わり始めています。 これからのセキュリティを考える上で、AIの導入は避けて通れないテーマです。まずは自社の現状を振り返り、AIをどのように取り入れるかを検討するところから始めてみてはいかがでしょうか。

プロフィール

長浜 弘和のプロフィール写真

長浜 弘和 (ながはま ひろかず)

2020年にアイディルートコンサルティング株式会社(IDR)の前身であるデジタルアーツコンサルティング株式会社に中途入社。

国内有数のSOARエンジニアとしてSOAR導入/運用支援プロジェクトに多数従事し、様々なセキュリティソリューションと連携したPlayBookを作成。 また、SOARソリューションの有識者としてセキュリティセミナーにも登壇。

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