2024/08/20その他

サイバネティクス

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サイバネティクス


CISO事業部 中村 和之

ギリシャ語の「kybernetes=舵取り手、パイロットという意味」に由来しています。実際は、1948年にアメリカの数学者ノーバート・ウィーナーによって打ち立てられた人間と機械を統合する理論により、世に広まることになります。彼は著書「サイバネティクス」で、制御と通信の理論について論じ、生物学的な生体システムと機械システムの間での情報フィードバックの相互作用について体系立てた理論を打ち立てています。

 昨今、ニュースや記事でよく見かける「サイバーセキュリティ」の「サイバー」とはどのような意味を持っているのかという疑問から、調査・執筆を進めています。従って、本編は少し歴史に偏った内容となってしまったかな?と感じるところがあるかもしれませんが、ご了承くださいませ。
 時は19408月23日にドイツ軍がイギリスロンドンへの空爆を開始した第二次世界大戦初期にまで遡ります。当時、ドイツ軍が連勝を重ねられたのは、当時防空技術というものが発達・発展していなかった時代に、圧倒的な強さを誇ったドイツ空軍を組織化出来ていた事が大きいと思います。その為、1940年の大晦日まで続いた空爆は、ドイツ軍に大きな戦果を残しました。ある夜は、8,326発の弾丸を使いやっと2機の戦闘機を撃ち落とせたという程、イギリスの防空力は弱かったのです。
 しかし、その1年も前から米国では防空力の上昇(ライズ)が必須であることが議論されており、1940627日にルーズベルト大統領が防空研究所(NDRC)を組織したタイミングで、企業や大学へ戦略的投資が進み航空機や弾丸の軌道計算やセンサーを人間に代わって機械が自動で代替えするための基礎研究が加速することとなります。各企業、大学、研究機関が軍事目的のために国のお金で研究を重ね、その過程で生み出されたのが人間と機械を統合する「サイバネティクス」という理論になります。
 「サイバネティクス」にてポイントとなるのは、"フィードバックループ"と"マシン適用"になるのですが、何よりも重要な概念は「生命であれ人工的なものであれ、どんな媒体にも信号がある」と考えられており、このベースの考え方が様々な分野へ拡がり、通信においては「サイバーセキュリティ」という言葉を生み出すに至ったのです。普段何気なく使っている言葉ですが、遡ると大抵の技術は軍事目的から派生していることを考えると、便利さの裏には多くの犠牲が横たわっているんだなぁと何とも言えない気持ちになります。
 近年、"ニューロン"等一部脳を構成する言葉が使われる事が多くなり、ますます脳のふるまいがマシンのそれと重なってきたなという思いが強くなってきております。また、自身がこうした記事を執筆することや、サイバーセキュリティの事例について調査・分析を進める中で、工学,数学,生物学,心理学だけでなく、社会学,哲学,人類学,政治学など幅広く、脳のふるまいに似た思考が必要となってきたことに気づかされます。つまりは、我々人類が進んでいる先は人間の特性をマシンに移植しているのみにすぎないのかもしれません。
 昨今、サイバーセキュリティの分野では、「予測」が一つ重要なファクターとして注目されています。しかし、最新テックのマシンラーニングを使っていても、予測という点について攻め手を先回りして防御することは出来ていないのが現状です。それは、"洞察力"という人間特有の能力にマシンの能力が達していないからだと私は思います。
 では、必要なインプットを増やしたらどうだろう?と大規模言語モデル(LLM)に傾倒した世の中が到来していますが、それでも乖離、間違いが多く誤情報を含め人間の脳のふるまいにはまだまだ遠いように思えます。インターネットを通じて多くの情報へアクセスすることが可能となり、LLMにより効率的に分析、解析、処理、抽出ができるようになったにも関わらずです。
 一体、これ以上何が必要となるのか?と思うかもしれませんが、私が予測する未来は経験知の蓄積、分析による洞察力を高めるアプローチに他ならないと思います。
 人によっては、いわゆる「勘」という言葉の方がしっくりくるかもしれませんが、何だか理由はわからないけど"違和感"を感じてしまうという感覚です。
「勘」という分野にアプローチされている研究者はいますが、未だ我々も到達していない領域となりますので、この先まだまだ研究・開発が盛んに行われ、AIのように社会の在り方を変える新しいテクノロジーが出てくる可能性があります。現在は、そのようなドラスティックに社会を変革するテクノロジーの出現を示唆する潮目に来ているのかもしれません。より新しい情報を早く、正確に入手し自身の経験値を使い分析するという日々のナレッジ作りをサイバーセキュリティの分野での対策における大事な要素の一つとして捉えなおす必要性をより強く感じます。

【プロフィール】

中村 和之(なかむら かずゆき)

 2024年にデジタルアーツコンサルティング株式会社(DAC
 ※2024/4よりアイディルートコンサルティング株式会社(IDR-C)へ社名変更

ヒューレットパッカード、パロアルトネットワークスを経て、ITインフラ・サイバーセキュリティの分野においてコンサルタントとして活動。最近では、多岐に渡るセキュリティ製品を顧客要件に応じて適切に組み合わせる知験作りにフォーカスした活動に注力している。

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