2025/04/11セキュリティソリューション

IAMから始めるDX: セキュリティ強化と 業務効率化の一石二鳥

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IAMから始めるDXセキュリティ強化と業務効率化の一石二鳥

 

執筆:CISO事業部 金井 優 
監修:CISO事業部 吉田 卓史

要旨

本記事は、**IAMIdentity and Access Management**についてセキュリティ強化と業務効率化の二つの側面からご紹介します。
リモートワークやクラウドサービスの普及に伴い、従来の境界型セキュリティモデルが有効に機能しにくくなっている現状があります。
ゼロトラストセキュリティの考え方を取り入れたIAMの重要性、企業として実行できる対策について、アイディルートコンサルティング(以下、IDR)が考えるセキュリティ対策をご紹介します。

記事本文

IAM (Identity and Access Management)の重要性

 

私達はリモートワークやクラウドサービスの普及により、これまで以上に深刻なサイバーセキュリティリスクに直面しています。IAMIdentity and Access Management)は、認証とアクセス管理を通じてこれらのリスクを軽減する有効な手段です。
本記事では、IAMがインサイダー脅威や認証情報漏洩、権限エスカレーションなどの具体的なセキュリティリスクにどのように対応できるかを解説するとともに、業務効率化にも寄与することをご説明いたします。

 

IAM」とは?

 

 IAMは、企業や組織においてユーザーやシステムのアイデンティティ(身元)を管理し、それらがどのリソースにアクセスできるかを制御する仕組みです。 *3


核になるプロセスは下記のとおりです。

  1. 認証(Authentication: ユーザーの身元を確認するプロセス
  2. 認可(Authorization: ユーザーがどのリソースにアクセスできるかを決定するプロセス
  3. 監査(Audit: 誰が、いつ、どのリソースにアクセスしたかの記録・追跡

 

また、リスクベースのアプローチや多要素認証(MFA)、シングルサインオン(SSO)などの技術を活用することで、セキュリティ強化と利便性の両立が可能であることを紹介します。



1. 現代の脅威に対抗するIAM

現代のビジネス環境は、リモートワークやクラウドサービスの普及によって急速に変化しています。これに伴い、従来の境界型セキュリティモデル(ネットワーク内部を安全と仮定するアプローチ)が効果を失いつつあり、ゼロトラストセキュリティが提言されています。 *1

 

データやアプリケーションがオンプレミスだけでなく、クラウドやリモートデバイスに分散する現在の状況では、物理的な境界による保護が機能しにくくなり、部分的なセキュリティ対策が追い付かず、脆弱な部分をピンポイントで攻撃されるリスクが懸念されます。

例えば、VPNはネットワーク上のセキュリティ対策として挙げられますが、ネットワーク制御だけではリモート接続やクラウドへの接続等、全てを保護することは難しく、攻撃者が一度内部ネットワークに侵入すれば、広範囲な被害を与える可能性があります。

 

IAMの必要性

このような状況下で、Identity and Access ManagementIAM)は、企業がセキュリティを維持するための重要な要素として注目されています。IAMは、ユーザーの認証と権限管理を一元化し、必要最低限のアクセスを保証することで、不正アクセスやデータ漏洩を防ぐ役割を果たします。

たとえば、あるグローバル企業では、リモートワークの増加に伴いIAMソリューションを導入しました。

この導入により、次のような成果を得ることができました *3

  • 社員がどのデバイスからでも安全に業務を遂行できる環境を構築
  • MFA(多要素認証)を導入して、パスワード盗難による不正アクセスリスクを削減
  • アクセス権限をポリシーで細かく管理することで、内部不正のリスクを軽減
  • SSO認証(複数回のログインを単一認証で行うこと)によるセキュリティレベルを担保した効率化の実現

IAMは単にセキュリティを強化するだけでなく、利便性の向上と業務効率化にも寄与します。このように、現代の分散化したIT環境において、IAMは企業のセキュリティ戦略はもとより、DX戦略においても欠かせない存在となっています。

2.なぜIAMが必要なのか


デジタル化やクラウドサービスの普及により、攻撃者が狙うポイントが増加しており、企業内外でのアクセス管理が新たな課題となっています。IAMIdentity and Access Management)は、こうした現状において効果的なリスク軽減策を提供します。


以下に、具体的なリスクとそのIAMによる解決方法を示します。


IAMを用いた権限管理

従業員が過剰な権限を持つことは、悪意を持った従業員が重要データにアクセスし、流出させるリスクを高めます。*3
IAMを活用することで、最小権限の原則(PoLP: Principle of Least Privilege)を適用し、従業員が業務に必要なデータやシステムにのみアクセスできるよう制限することで、内部不正のリスク低減を図ります。また、リアルタイム監視機能を導入することで、異常な操作を即座に検知し、不正行為を即座に発見することができます。



認証情報の漏洩


フィッシング攻撃や標的型メール攻撃により、従業員のパスワードが盗まれるケースが後を絶ちません。これにより、攻撃者が従業員になりすましてシステム全体にアクセスし、大量のデータを窃取する危険性があります。*3

IAMによる対策

IAMの多要素認証(MFA)機能を活用することで、パスワードのみに依存せず、ワンタイムパスワードやバイオメトリクスを追加の認証要素として使用します。これにより、仮にパスワードが漏洩しても攻撃者は簡単にアクセスすることができません。


攻撃者が一般社員のアカウントを乗っ取り、そのアカウントを利用し、管理者権限を不正に取得する「権限エスカレーション」は、特に深刻な被害を引き起こします。例えば、攻撃者がデータベースへのフルアクセスを得た場合、顧客情報等の重要情報が大量に漏洩し、企業は多大な損害賠償の支払いやレピュテーションの低下による企業価値の毀損等、甚大な被害が発生します。*4


IAMは定期的な過去のアクセス履歴を分析して、不要な権限を特定する権限レビューにより効率的なIDの棚卸を実現します。具体的には、ポリシーベースで一定期間利用されていない権限を自動的に無効化する設定やユーザーの通常の行動パターンを機械学習で分析し、異常なアクセス試行を検知し、ブロックする動的アクセス制御を通じて、不要な権限を自動的に削除する機能があげられます。

また、上記の検知や通常と異なるIPからのアクセスをリアルタイムで判定し、対応するなど即時性に優れた機能もあります。
さらに近年では、AIを活用した異常検知で、AI/機械学習を用いたログ解析(SIEMUEBAツールの活用)により、不審な権限昇格の試みをリアルタイムで検出し、通常の業務では不要な管理者権限をリクエストした場合、自動的に警告を発し、管理者の承認なしには適用されない仕組みを導入することで、権限エスカレーションの試みを即座に阻止するソソリューションもあります。(例:AWS GuardDutyMicrosoft Defender for Identity* 5 * 6

 

3. リスクベースのIAM戦略

IAM(Identity and Access Management)を効果的に活用するためには、静的なセキュリティポリシーだけでなく、ユーザーやデバイスのリスクに基づいて動的に対応するアプローチが求められます。この戦略により、セキュリティの強化と利便性の両立を実現し、よりスマートなアクセス管理が可能になります。本セクションでは、具体的なアプローチとその効果を解説します。

リスクスコアリング

ユーザーの行動やデバイスの状況に基づき、リスクスコアを計算してアクセス制御を動的に調整する仕組みです。不審なIPアドレスや通常とは異なる行動が検出された場合、追加認証を要求するなどの対策を自動化します。(リスクベース認証)
具体的には、通常とは異なる国からのログイン試行を検知した場合、追加認証としてワンタイムパスワード(OTP)を要求することで不正アクセスを防止しています。

権限管理のベストプラクティス

継続的な権限レビューと、プロジェクトの開始や終了に応じて権限を付与・削除する自動化されたプロセスを導入することで、不要な権限によるリスクを最小化します。

4. 多要素認証(MFA)とシングルサインオン(SSO

現代のサイバーセキュリティでは、認証技術が非常に重要な役割を果たしています。攻撃者が高度化する中、従来のパスワードベースの認証だけでは防ぎきれない脅威が増加しています。その中で、多要素認証(MFA)とシングルサインオン(SSO)は、次世代の認証技術として、セキュリティの強化と業務効率化を同時に実現する有力なソリューションとして注目されています。*3

 

多要素認証(MFA)の有効性

MFAは、複数の認証要素(「知っているもの」=パスワード、「持っているもの」=デバイス、「本人であること」=生体認証など)を組み合わせることで、不正アクセスのリスクを大幅に低減します。たとえば、攻撃者がユーザーのパスワードを取得した場合でも、追加の認証要素が必要となるため、システムへの不正アクセスが困難になります。*3


MFAの強み:

  • フィッシング攻撃の抑止: 攻撃者がパスワードを入手しても、生体認証やワンタイムパスワード(OTP)が必要なため、攻撃の成功率を下げることができます。
  • 認証プロセスの柔軟性: デバイスや接続元IPのリスク評価に応じて、追加認証をオンデマンドで要求するなど、リスクベースの対応が可能です。

MFAとSSOの活用により、ユーザーの安全性を確保しながら、利便性を損なわないバランスの取れた認証が実現します。

 

シングルサインオン(SSO)の有効性

SSOは、一度の認証で複数のシステムやアプリケーションに安全にアクセスできる仕組みを提供します。これにより、ユーザーは複数のパスワードを記憶する必要がなくなり、利便性とセキュリティを同時に向上できます。*3

SSOの強み:

  • パスワード管理の負担軽減: ユーザーが複数の複雑なパスワードを覚える必要がなくなるため、パスワードの使い回しや記録ミスによるセキュリティリスクが低減します。
  • IT管理の効率化: 管理者はユーザーの認証情報を一元管理できるため、アカウントのオンボーディングやオフボーディングのプロセスが簡素化されます。
    また、SSOに統合されているシステムのアクセスログを一元的に管理できるため、不正アクセスがどのシステムに及んでいるかを迅速に特定でき、セキュリティインシデント時の対応も迅速になります。
  • 業務の効率化:業務効率の向上にも寄与します。たとえば、複数のクラウドサービスを利用する環境では、従業員が都度ログインする手間が省けるため、作業中断を最小限に抑えられます。

 

まとめ

IAMは、現代の企業にとって不可欠なセキュリティ基盤です。

リモートワークやクラウド環境の普及に伴い、ゼロトラストの考え方を取り入れたIAMの活用が求められています。認証・認可の強化、アクセス管理の一元化、多要素認証(MFA)やシングルサインオン(SSO)を組み合わせることで、セキュリティ強化と業務効率化に寄与する一石二鳥の有効な対策であると考えます。弊社では、IAMの導入計画から運用までを一貫してサポートしております。企業のセキュリティ強化・DX推進に向け、ご検討の際は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

 

【プロフィール】

金井 優(かない ゆう)

2024年にアイディルートコンサルティング株式会社(IDR)に新卒で入社。大学での学習を通じてサイバーセキュリティに関心を持ち、コンサルタントとしての道を選ぶ。国内の金融機関に対するセキュリティアセスメントに携わる。

監修:吉田 卓史(よしだ たくし)

20年間にわたり、一貫してサイバーセキュリティに携わる。ガバナンス構築支援からセキュリティ監査、ソリューション導入等、上流から下流まで幅広い経験を有する。また、複数の企業において、セキュリティのコンサルティングチーム立ち上げを0から担い、数億円の売上規模にまで成長させる。IDRにおいても、セキュリティコンサルティングチームの立ち上げを担い、急速なチーム組成、案件受注拡大を行っている。

 

【参考文献】

 

  1. Nash Tech. "Security in the Digital Transformation Age." 2022. https://our-thinking.nashtechglobal.com/insights/security-in-the-digital-transformation-age.
  2. Cloud Security Alliance. "Zero Trust Guiding Principles." 2023. https://cloudsecurityalliance.org/artifacts/zero-trust-guiding-principles.
  3. National Security Agency (NSA) and Cybersecurity and Infrastructure Security Agency (CISA). "Identity and Access Management: Developer and Vendor Challenges. "Enduring Security Framework (ESF), https://www.nsa.gov/cybersecurity-guidance
  4. "Multicloud Security and Identity with Azure and Amazon Web Services (AWS)." Microsoft Azure Architecture. 2024. https://learn.microsoft.com/en-us/azure/architecture/aws-professional/security-identity.
  5. "Amazon GuardDuty." 2025. https://aws.amazon.com/jp/guardduty
  6. "Microsoft Defender for Identity." Microsoft. https://www.microsoft.com/en/security/business/siem-and-xdr/microsoft-defender-for-identity.

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